書店発売に先立ち、一足先に『談』Webサイトでは、各インタビューのアブストラクトとeditor’s noteを公開します。
右メニューの最新号no.127の表紙をクリックしてください(6月30日正午公開)。

『談』no.126 自動化のジレンマ
企画趣旨
AIとは、「Artificial Intelligence」の略語で人工知能を意味する。AI研究は、どのようなことを研究するのだろうか。一般的な答えの一つは、機械に何らかの「知的」な振る舞いを行わせること、というものだ。ただ、知的な振る舞いにもさまざまあり、そもそも一般的なICT=Information and Communication Technology(電卓も含まれる)は、知的な振る舞いをしていることには違いない。
昨今、業務の効率化やDX推進のに役立つものとしてひときわ関心を集めているのがAIやRPAである。Robotic Process Automationの略語であるRPAは、いわゆるロボットによる業務自動化で、日々の業務のなかで人間がPCを使って行える作業を、人間がやるのと同じように自動的にさせることをいう。RPAがあらかじめ設定されたルールや基準に従って作業を行うのに対して、AIは、自ら判断をして作業を行う。つまりRPAは、業務を自動化するシステムだが、AIは、それ単体で何かをするわけではなく、システムやデバイスに組み込まれることで機能する。RPAとAIの違いは「自律性」をもつシステムか否かということになる。
約10年前の研究では、43%のアメリカ人の職が今後20年のうちに自動化されるといわれている。この研究によって多くの経済学者、科学技術者、政策立案者、哲学者などはいわゆる「仕事の終わり」について熟考するようになったという。「仕事の終わり」とは、単に多くの仕事が不要になり、大量失業が発生するという社会現象だけを意味するわけではない、人間の知恵(wisdom)そのものが問われているのだ。人間にとって仕事とは何か、知識とは何か、そしてなによりも知恵とは何か。自動化という動向の根底には、こうした哲学的問題が横たわっていて、そのことに目を向けざるを得なくなったのである。

杉本舞氏インタビュー
「自動化のコノテーション…AI研究の進展と自動化が意味するもの」
2010年代に入って、AIは歴史上3度目のブームを迎えたといわれている。コンピュータを用いた推論や自然言語処理、探索といった演繹的アプローチによる研究やパーセプトロンをはじめとする人工ニューラルネットワークに関する研究が始まった1960年代の第1次ブーム、エキスパートシステムをめぐって進展しAIビジネスが立ち上がった1980年代の第2次ブーム。そして、機械学習研究が進展し深層学習(ディープランニング)がメインテーマとなった2010年代の第3次ブーム。AIビジネスへの投資が本格化し、いまやAIは国際競争力と国家安全保障の要になりつつある。コンピューティングの最大の特徴である自動化に焦点を当て、AI研究の歴史的検証を通して、自動化の意味および自動化概念の拡張領域を探索する。
関西大学社会学部社会学科社会システムデザイン専攻准教授。
著書に『「人工知能」前夜:コンピュータと脳は似ているか』(青土社 2018)、監訳書に『コンピューティング史:人間は情報をいかに取り扱ってきたか(原著第三版)』(共立出版 2021)他がある。

鈴木貴之氏インタビュー
「自動化は自律化をもたらすのか」
自律型ロボット=ヒューマノイド型ロボットが人間社会に活躍の場を見出すことは、少なくともSFのなかでは、自明だった。鉄腕アトムはそうであったように、ロボットはその誕生から、自律するものだった。自律型ロボットが普及すれば、単純労働における労働不足が解消するかもしれない。究極的には、私たちは全ての労働を自立型ロボットに行わせることができるかもしれない。そうなった時、人類は歴史上初めて働く必要のない存在になるのである。RPAは、いわゆるロボットによる業務自動化で、人間がやるのと同じように自動的にさせることをいうが、AIはさらに進み、自ら考え判断して行動する。このことを自律と見なすわけであるが、この一連の行為は、本当に自律的といえるのだろうか。自動か自律か。この古くて新しい問題について、人工知能研究からアプローチする。
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 相関基礎科学系教授。
著書に『人工知能とどうつきあうか』(勁草書房 近刊)、『100年後の世界』(化学同人 2018)他がある。

笠木雅史氏インタビュー
「自動運転とトロリー問題…自動化・人工知能・倫理」
応用倫理学の分野で従来話題になるのがトロリー問題だ。トロリー問題とは、暴走するトロりー(trolley=路面電車)の線路上に、追突必死の作業員がいる。路線は、途中で2車線に分岐していて、左の路線には5人が線路に縛られて寝かされていて、右の線路には、1人が同じように縛られて寝かされている。線路脇には線路を切り替えるレバーがあり、その前で第三者が線路をどちらに切り替えるか迷っているが、分岐点までトロリーはせまってきている。さて、第三者はレバーをどちらに切るか、5人を救うためには、右に切る必要があり、1人を救うためには、左に切らなければならない。5人を救うために1人を犠牲にするか、1人を救うために5人を犠牲にするか。近年、自動運転技術の倫理的問題としてこのトロリー問題に関心が集まっている。ここにあるのは、典型的な自動化のジレンマだ。トロリー問題をいかに回避するか、というか、そもそもトロリー問題は解決不可能な哲学上のアポリアなのではないか。
名古屋大学大学院情報学研究科准教授。
著書に『モビリティ・イノベーションの社会的受容:技術から人へ、人から技術へ』分担執筆(北大和書房 2022)、『実験哲学入門』分担執筆(勁草書房 2020)他がある。