書店発売に先立ち、一足先に『談』Webサイトでは、各インタビューのアブストラクトとeditor’s noteを公開します。
右メニューの最新号no.125の表紙をクリックしてください(10月31日午前公開)。
『談』no.124 ゆらぐハーモニー …調性・和声・響き
企画趣旨
ハーモニーの語源は、ギリシャ神話の調和の女神「ハルモリア(harmonia)」で、「和音」あるいは「和声」などと訳され、時には「調性(tonality)」そのものを指す場合もある。和音(chord)は、ドミソやシレソのように、複数の楽音がタテに同時に響いてひとつの集合音になっている二次元の「単体」の状態のことであるが、和声(harmony)は、和音を構成するそれぞれの音(声部)の動き方や並び方、およびその組み合わせを指し、いわば、三次元となった「複合体」のこと。ひとつの「音」の横の並びが「メロディ(旋律)」、複数の音の重なり具合が「ハーモニー(和声)」、タテに並んだ瞬間の組み合わせが「コード(和音)」、そしてそれらの体系や秩序が「調性」ということになる。つまり、西洋クラシック音楽が体系付けた「ハーモニー(調性のシステム)」というのは、複数の音が「協和する」関係にある(と人間が認識する)ことであり、「音楽表現」とは、それを人為的に変化(操作)させることだといえる。ゆえに、「協和」の探求こそハーモニーにとって最も根源的で普遍的な問題なのだ。
「響き合いの世界」の2回目は、西洋近代(=西洋クラシック音楽)を基礎付ける最重要概念「ハーモニー」を考察する。ハーモニーは、はたして「自然」なのか。そして何よりも「ハーモニー」に未来はあるのか。
■伊藤友計氏インタビュー
「和声的調性音楽は“自然”なのか…自然は楽器も音階も和音もつくらない」
現代の調性は、モンテベルディの革新によって現出し、理論面においては、1722年のラモーの『和声論』によって決定的に定位されるところとなった。もとより、音楽を考えるにあたって、拍子やリズム、音色や音色が重要であるのは言うまでもないが、西洋音楽という輪郭を明確にかたち付けたという点で、「調」「調性」「和声」の発見/発明は決定的であった。
和声的調性音楽は、ひとつの予定調和の世界をつくりあげている。しかし、予定調和の音楽が、和声的調性の音楽でなければならない理由はない。閉じられた予定調和の外には計り知れない数の音楽が存在し、現にそうした「外を目指す音楽」は、日々量産され続けていることも、事実である。にもかかわらず、人々が耳にする音楽の大半は、いまだに和声的調整音楽である。われわれの意識のなかでは、「音楽=自然」という不動の等式すらでき上がってしまっているようにも思える。
和声的調整音楽の圧倒的浸透力。「調」「調性」「和声」の誕生、成立、発展を追いながら、その浸透力の秘密に迫る。なお、サブタイトルの文言は『和声の理論』の著者M.シャーロウによる。
いとう・ともかず/1973年生まれ。明治大学非常勤講師。文学博士(東京大学)、音楽学博士(東京藝術大学)
著書に『西洋音楽の正体:調と和声の不思議を探る』(講談社選書メチエ 2021)、『西洋音楽理論にみるラモーの軌跡:数・科学・音楽をめぐる栄光と挫折』(音楽之友社 2020)、訳書に『自然の諸原理に還元された和声論』J.-Ph.ラモー(音楽之友社 2018)他。
■源河亨氏インタビュー
「悲しい時に無性に悲しい曲が聴きたくなるのはなぜ?…音楽と情動の不思議な関係」
「悲しい時には、悲しい曲を聴くのがいい」とよくいわれる。悲しみ、憂鬱、不安などネガティヴな感情を抱いている時に、陽気な曲を聴くのではなく、むしろ、自分の感情と同質の悲しい曲の方がネガティヴな感情を軽減させるからというのである。音楽療法で「同質の原理」と呼ばれているものだが、考えてみると、これは不思議な考えだ。音楽は音の配列であり、振動という物理現象であり、人間の感情とは無縁。にもかかわらず同質とみて、ネガティヴな感情を軽減するように働くというのである。人間の心的過程を問題にし人間の情動機能(=感情)に注目する心の哲学の観点から、あらためて「同質」の意味を検討し、音楽と情動の抜き差しならぬ関係について考察する。
げんか・とおる/1985年生。九州大学大学院比較社会文化研究科講師。博士(哲学)。
著書に『「美味(おい)しい」とは何か:食からひもとく美学入門』(中公新書 2019)、『悲しい曲の何が悲しいのか:音楽美学と心の哲学』(慶應義塾大学出版会 2019)、『知覚と判断の境界線:「知覚の哲学」基本と応用』(慶應義塾大学出版会 2017)他。
■沼野雄司氏インタビュー
「響きの未来、無調、電子音響以降の表現のゆくえ」
中世以来の音楽はすべからく広義の調性をもっている。テレビやラジオで日々接する楽曲のほとんども明快な調性(和声的)音楽である。しかし、今日、「無調」は現代音楽のひとつの根を成す重要な様式的メルクマールとなっている。無調で作曲を行うとは、調性音楽からの離脱を意味するだけではなく、長い間培われてきたわれわれをとり囲んでいる音の世界そのものからの脱却をも意味している。さらに電子テクノロジーの進展は音楽環境そのものを根底から覆そうとしている。調性音楽の徹底的な浸透とそれとは相反する無調と電子音響の隆盛。現在の音楽環境のこのアマルガム状況をわれわれはどのように捉えればいいのだろうか。音楽と響きの未来を探る。
ぬまの・ゆうじ/1965年生。桐朋学園大学教授。/博士(音楽学)
著書に『現代音楽史』(中公新書 2021)、『エドガー・ヴァレーズ 孤独な射手の肖像』(春秋社 2019)、『リゲティ、ベリオ、ブーレーズ 前衛の終焉と現代音楽のゆくえ』(音楽之友社 2005)他。
表紙・裏表紙は菅木志雄の立体、ギャラリーでは、曽谷朝絵作品を掲載
右メニューの最新号no.125の表紙をクリックしてください(10月31日午前公開)。
『談』no.124 ゆらぐハーモニー …調性・和声・響き
企画趣旨
ハーモニーの語源は、ギリシャ神話の調和の女神「ハルモリア(harmonia)」で、「和音」あるいは「和声」などと訳され、時には「調性(tonality)」そのものを指す場合もある。和音(chord)は、ドミソやシレソのように、複数の楽音がタテに同時に響いてひとつの集合音になっている二次元の「単体」の状態のことであるが、和声(harmony)は、和音を構成するそれぞれの音(声部)の動き方や並び方、およびその組み合わせを指し、いわば、三次元となった「複合体」のこと。ひとつの「音」の横の並びが「メロディ(旋律)」、複数の音の重なり具合が「ハーモニー(和声)」、タテに並んだ瞬間の組み合わせが「コード(和音)」、そしてそれらの体系や秩序が「調性」ということになる。つまり、西洋クラシック音楽が体系付けた「ハーモニー(調性のシステム)」というのは、複数の音が「協和する」関係にある(と人間が認識する)ことであり、「音楽表現」とは、それを人為的に変化(操作)させることだといえる。ゆえに、「協和」の探求こそハーモニーにとって最も根源的で普遍的な問題なのだ。
「響き合いの世界」の2回目は、西洋近代(=西洋クラシック音楽)を基礎付ける最重要概念「ハーモニー」を考察する。ハーモニーは、はたして「自然」なのか。そして何よりも「ハーモニー」に未来はあるのか。
■伊藤友計氏インタビュー
「和声的調性音楽は“自然”なのか…自然は楽器も音階も和音もつくらない」
現代の調性は、モンテベルディの革新によって現出し、理論面においては、1722年のラモーの『和声論』によって決定的に定位されるところとなった。もとより、音楽を考えるにあたって、拍子やリズム、音色や音色が重要であるのは言うまでもないが、西洋音楽という輪郭を明確にかたち付けたという点で、「調」「調性」「和声」の発見/発明は決定的であった。
和声的調性音楽は、ひとつの予定調和の世界をつくりあげている。しかし、予定調和の音楽が、和声的調性の音楽でなければならない理由はない。閉じられた予定調和の外には計り知れない数の音楽が存在し、現にそうした「外を目指す音楽」は、日々量産され続けていることも、事実である。にもかかわらず、人々が耳にする音楽の大半は、いまだに和声的調整音楽である。われわれの意識のなかでは、「音楽=自然」という不動の等式すらでき上がってしまっているようにも思える。
和声的調整音楽の圧倒的浸透力。「調」「調性」「和声」の誕生、成立、発展を追いながら、その浸透力の秘密に迫る。なお、サブタイトルの文言は『和声の理論』の著者M.シャーロウによる。
いとう・ともかず/1973年生まれ。明治大学非常勤講師。文学博士(東京大学)、音楽学博士(東京藝術大学)
著書に『西洋音楽の正体:調と和声の不思議を探る』(講談社選書メチエ 2021)、『西洋音楽理論にみるラモーの軌跡:数・科学・音楽をめぐる栄光と挫折』(音楽之友社 2020)、訳書に『自然の諸原理に還元された和声論』J.-Ph.ラモー(音楽之友社 2018)他。
■源河亨氏インタビュー
「悲しい時に無性に悲しい曲が聴きたくなるのはなぜ?…音楽と情動の不思議な関係」
「悲しい時には、悲しい曲を聴くのがいい」とよくいわれる。悲しみ、憂鬱、不安などネガティヴな感情を抱いている時に、陽気な曲を聴くのではなく、むしろ、自分の感情と同質の悲しい曲の方がネガティヴな感情を軽減させるからというのである。音楽療法で「同質の原理」と呼ばれているものだが、考えてみると、これは不思議な考えだ。音楽は音の配列であり、振動という物理現象であり、人間の感情とは無縁。にもかかわらず同質とみて、ネガティヴな感情を軽減するように働くというのである。人間の心的過程を問題にし人間の情動機能(=感情)に注目する心の哲学の観点から、あらためて「同質」の意味を検討し、音楽と情動の抜き差しならぬ関係について考察する。
げんか・とおる/1985年生。九州大学大学院比較社会文化研究科講師。博士(哲学)。
著書に『「美味(おい)しい」とは何か:食からひもとく美学入門』(中公新書 2019)、『悲しい曲の何が悲しいのか:音楽美学と心の哲学』(慶應義塾大学出版会 2019)、『知覚と判断の境界線:「知覚の哲学」基本と応用』(慶應義塾大学出版会 2017)他。
■沼野雄司氏インタビュー
「響きの未来、無調、電子音響以降の表現のゆくえ」
中世以来の音楽はすべからく広義の調性をもっている。テレビやラジオで日々接する楽曲のほとんども明快な調性(和声的)音楽である。しかし、今日、「無調」は現代音楽のひとつの根を成す重要な様式的メルクマールとなっている。無調で作曲を行うとは、調性音楽からの離脱を意味するだけではなく、長い間培われてきたわれわれをとり囲んでいる音の世界そのものからの脱却をも意味している。さらに電子テクノロジーの進展は音楽環境そのものを根底から覆そうとしている。調性音楽の徹底的な浸透とそれとは相反する無調と電子音響の隆盛。現在の音楽環境のこのアマルガム状況をわれわれはどのように捉えればいいのだろうか。音楽と響きの未来を探る。
ぬまの・ゆうじ/1965年生。桐朋学園大学教授。/博士(音楽学)
著書に『現代音楽史』(中公新書 2021)、『エドガー・ヴァレーズ 孤独な射手の肖像』(春秋社 2019)、『リゲティ、ベリオ、ブーレーズ 前衛の終焉と現代音楽のゆくえ』(音楽之友社 2005)他。
表紙・裏表紙は菅木志雄の立体、ギャラリーでは、曽谷朝絵作品を掲載
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