医学書院の編集者・白石正明さんから村上靖彦著『摘便とお花見 看護の語りの現象学』を贈呈していただきました。本書は4人の看護師さんにインタビューをし、その逐語録を著者の専門である現象学という方法を用いて分析したものです。こう言ってしまうと、「な〜んだ、看護師さんの語りを起こしたものか、それもたった4人、それでいったい何がわかるっていうの」という言葉がすぐにも返ってきそうですが、さにあらず。本書はとんでもなくぶっ飛んだインビュー集なのです。
帯に「看護師の尋常ではない語りに耳を傾ける」とあるように、たった4人ではあるけれども、その4人の口から溢れ出る言葉の群れは、おそろしいまでに多様かつ多彩です。時に澱んだり、反復したり、すっとんだり。あるいは自ら発した言葉に激しく反応するなんてこともしばしば。しかし、それは決して感情や心理状態を表すものではないし、著者はむしろそうしたものからできるだけ逃れようとすらしている。言葉の密林にわけ入っていくことで、逆に言葉ならざる言葉、行為ならざる行為に出会ってしまう私という不思議。たった4人の肉声のなかに何千人もの声が反響しあう。そんな瞬間、瞬間の連鎖が、われわれの日常というものの本性なのかもしれない。
とても尋常とはいえない営みのなかに見出された「とるにたらない日常」。生きるとはまさに矛盾そのもの。インタビューというありふれた手法が、じつは、ぜんぜんありふれていないということを、本書は静かに、しかし確信をもって示そうとしているのです。
付章として書かれた「インタビューを使った現象学の方法」が秀逸。この最後の章は著者のインタビュー論であると同時に、「現象学入門」でもあります。ただし、とてつもなくぶっ飛んだものなので、取り扱いには気を付けましょう。