『談』no.97 特集 〈快〉のモダリティ
7月10日 全国一斉発売!!

快楽は、人間にとっていわばエンジンのような存在である。ただ、エンジンがそうであるように、時にそれは暴走することもある。それをコントロールするのが大脳皮質の役割であり、人間はそのコントロール装置としての大脳皮質を発達させることで、快楽をうまく操れるようになった生きものだ。むしろ快楽をうまく操縦して、楽しく生きることそれ自体が人間にとっての目的であるといってもいいのである。
人間における快楽の重要性を説き、快楽とどう向き合うか、また、人の営み、社会の営みのなかで、快楽を位置付け直し、快楽そのものの意味を問う。


◎〈快〉の幸福論……人間の欲求と「やみつき」のちから
廣中直行(神経精神薬理学)
火それ自体が人間にもたらす感覚的な「快」が先ずあって、夜でも明るくて便利だとか、冬でも暖かいとか、食料を煮たり焼いたりすると食べやすかったりおいしくなったりするといったこと、つまり「機能」は二の次ではないかと。人間にとっての「快」とは、後回しにしてもいいような付加的なものではなくて、むしろそれが人間存在の根本にあるものではないかと、今はそう思うようになりました。(インタビューから)

◎消費社会と快楽のゆくえ…真物質主義から第三の消費文化へ
間々田孝夫(立教大学社会学部教授)

今の若い人を見ていると、ほとんど「快楽」という意識をもたずに消費行動を楽しみ、それゆえに快楽のもつネガティブな側面から解放されているというふうにも見えます。むしろ外見は一般的な生活を維持しながら、内面は自分の趣味や興味のある対象にはひたすら寄り添っていくことで大きな楽しみを得る。そういう快楽に、おそらく今はなっているし、これからもそういう方向で成熟と深化をとげていくんだろうと思います。(インタビューから)


◎喜び、快楽のモダリティを変えること
十川幸司(精神分析家)
喜びということは、快楽のモダリティを変えることによって、生まれてくる情動です。それは現実を無視することでも現実に服従することでもなく、逆に、現実をよく見据えるなかでしか、生まれてこない情動です。快をベースとして、喜びを見出すこと……そこにこそ精神分析の課題があると思います。(インタビューから)

著者について
廣中直行
1956年生。実験動物中央研究所、理化学研究所脳科学総合研究センター、専修大学などを経て、現在、三菱化学メディエンス株式会社創薬支援事業本部に勤務。医学博士。専門は心理学、神経精神薬理学。
著書に『快楽の脳科学』(日本放送出版協会)、『人はなぜハマるのか』(岩波科学ライブラリ−)、他。

間々田孝夫
1952年。立教大学社会学部教授。専攻は消費社会論、経済社会学、社会行動論、社会階層論。
著書に『第三の消費文化論』(ミネルヴァ書房)、『消費社会のゆくえ』(有斐閣)、他。

十川幸司
1959年。自治医科大学精神科で臨床に従事した後、パリ第八大学、社会科学高等研究院(EHESS)で精神分析、哲学を専攻。現在、個人開業(十川精神分析オフィス)。精神分析家、精神科医。
著書に『来るべき精神分析のプログラム』(講談社選書メチエ)、『思考のフロンティア 精神分析』(岩波書店)、他

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談 no.97
廣中直行
水曜社
2013-07-10