畠山直哉さんの個展「Natural Stories」にいってきました。じつは、開催前日の内覧会にも行ったので2回目です。あらためてじっくり見て、一つわかったことがありました。畠山さんの写真とカメラ・オブスクラの関係です。われわれが考える以上に両者は深く結びついている。会場入り口横に、カメラ・オブスクラを使って自らが描いたドローイングが展示されています。このドローイング、一見作家の遊び心から生まれたもののようにも見えるのですが、さにあらず、畠山さんの写真制作の本質にかかわる作業なのです。今回作家の生まれ故郷である陸前高田市を撮った写真が展示されています。震災と津波の爪痕が痛々しく残る風景の連作とともに、この10年間何度か訪れその際に撮られたと思われる風景が、スライドショーのかたちで展示されていました。それを見た瞬間、これはカメラ・オブスクラの中に入り込むことで捉えることのできる写真だと思ったのです。額装されたモニターに次々と写し出される写真。そこにあるのは、まさに自らが写真機となり、オートマティックにシャッターを切ることによってのみ可能な日常の風景です。思えば、畠山さんのスナップ写真をまともに見たのはこの展覧会が始めてでした。畠山さんは、「ライム・ヒルズ」「アトモス」「もうひとつの山」「ブラスト」と次々に問題作を発表してきました。風景写真のイデオムを根底からひっくり返してしまったその作品は、しかし、写真機それ自体に生成変化した写真家の拡張された世界像だったのです。「ブラスト」=爆発写真を見てほとんどの人が口にするのは「これ、だれが、どこで撮ってるの?」。代わりに僕がお答えしましょう。まさにあの爆発現場のただ中で、僕=写真機自身がシャッターを切っているんだよ。……そんな妄想がわき上がる展覧会でした。ちなみに、畠山さんは『談』no.64「視覚論再考」で佐々木正人さんと対談をしています。また、no.71「匿名性と野蛮」で写真作品を掲載しています。
畠山直哉展 Natural Stories ナチュラル・ストーリーズ