臨床の詩学
クチコミを見る
つまらない人生入門 (鬱屈大全)
クチコミを見る
2月に贈っていただいた『臨床の詩学』を紹介しようと思っていたら、ポストに『つまらない人生入門 鬱屈大全』が入っていた。春日武彦先生の新刊だ。昨年の10月に『天才だもの。』を出して、わずか半年で3冊。もちろん、月刊誌なみに、次々と本を出す人はいるし、50歳の節目に200冊目を出版することができましたなどと、その業績を誇る御仁もいるにはいる。それから比べれば、決して早いとはいえない。しかし、春日先生の本を一度でも手に取ったことがある人ならば、そのペースは、およそ先生らしくないと思うにちがいない。春日先生の生み出す言葉は、いつも、決まって少しだけ余所見をしている。いや、余所見というより、寄り道だ。少し寄り道をするうちに、ずんずんと寄り道が過ぎて、気が付くとまるで関係のないところをうろうろしている、ということがしばしば起こるのである。そんな文章だから、いや、そんな文章ばかりだから、とてもたくさん本を出すような人のようには、どうしても思えないのである。
寄り道というと、子供の時分のことを思い出す。愉しいものだから、ついつい寄り道をして……、しかし、先生の寄り道は、そういうのとは違う。先生の寄り道は、ちっとも愉しそうではない。むしろ、それをどこかで呪っているようにすらみうけられる。なのに、ずんずん行く。
新刊のタイトル。これはなんなんでしょうか。目次をみると、第1話「絶望感」、第2話「喪失感」、第3話「嫌悪感」、第4話「脱力感」……、こんな調子で、芋づる式にネガティヴこのうえないテーマが続く。吉野朔美さん(大ファン!!)の漫画がそれぞれの話におまけのようにくっついているのだが、これがまた話に輪をかけて後ろ向きなのである。それで、ずんずんと行くものだから、しだいにその後ろ向きが、なんだかとてもふつうに、居心地良いものに思えてもくるから不思議だ。ネガティヴなもの、それはゆっくりしたもののことなのか。つまり、スローライフ? 先生、やはり1年1冊くらいのペースがよろしいかと。
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。