『TASC monthly』への掲載を目的とした公開対談をやりました。テーマは「なぜ人々はゼロリスクを願うのか」。対談者は東京大学生産技術研究所教授・渡辺正先生と帝塚山大学福祉学部教授・中谷内一也先生。
渡辺先生には、『談』no.69で「環境問題を科学はどう伝えているか…ダイオキシン神話を例に」というインタビューをしています。地球温暖化論や健康リスク論の誤りをサイエンスの立場から、批判し論証してきたお一人です。中谷内先生は、社会心理学の立場からリスクコミュニケーションの必要性を説き、リスク論においては何よりも「信頼」が鍵を握ると主張してこられました。
●対談は、まず、中谷内先生が、専門家と一般の人々のあいだにあるリスクにおける認識のギャップを認めたうえで、一般の人々には、事実を正確に伝えるだけでなく、心理的バイアスを考慮したうえで、信頼性を軸にした価値の共有が重要と指摘。渡辺先生は、定量的に扱う訓練を科学教育はきちっとしていない。そのためには、何よりもまず一般市民が科学的なリテラシーをもつことだと言います。
●たとえば、摂取物の発がんパワーの横綱はエタノール(酒)。エチレンチオ尿素、ダイオキシンと比べると1000倍近い。仮に、酒を化学物質なみに規制すると、一日の摂取許容量は、日本酒換算で0.1mL。 5年間毎日飲み続けてやっと一升になる計算。一日に一合とっくりをあける御仁だと、それだけで1800倍になるのです。ちなみに、発がんパワーだけでみると、普段食べているりんご、セロリ、にんじん、ジャガイモなども、ダイオキシンの200倍以上あるといいます。また、酸性・アルカリ食品などいう概念は、環境ホルモン同様そもそも世の中に存在しないものなのに、いたずらに危険視される。これなども、科学リテラシー不在の現状を如実に示しているといえます。
●ただ、中谷内先生が強調するように、人々は感情に作用される面が強く、理性的・合理的説明をいくらされても、いったんそうだと思い込むと容易に考え方を変え難い側面をもっています。感情システムを取り込んだうえでリテラシー+信頼の関係をいかにして築くか、そのためには感情あるいは価値の共有をベースにした合意形成が必要だといいます。
●今回の対談で、一つ印象に残ったのは、リスク論の常識として「リスク評価」に重点がおかれますが、これは、あくまでも理性的システムに基づく評価。感情システムに働きかける方途なしには、有効性は期待できないということでした。経済においても、感情が大きく左右することが近年の研究でわかってきましたが、リスクの問題も例外ではないということでしょう。『談』では、以前から情動機能に注目してきましたが、それはここでいう感情と同義です。「知・情・意」でいえば「情」。「情」とリスクの関わりについて、今度は『談』でじっくり考察してみようと思います。
コメント一覧 (2)
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- 2009年03月21日 00:07
- コメントありがとうございます。ムービーをご所望ということですが、
何分今から10年以上前のものなので、サイトにアップできるようなものではないんです。今だったら、YouTubeでさくさくっと見せられるのでしょうが、当時は画素数を落とし、コマも落とし、とにかく軽くして…、なんて編集していたものですから、これが精一杯でした。
ただ、フィルムだけでなくQuickTimeに落としてはあるので、機会があればアップしたいと思っています。何かうまい方法 知りませんかねぇ。
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「「談」アーカイヴス」にある動画を興味深く拝見しました。お願いがあるのですが、もう少しだけ長い動画をアップして頂けないでしょうか?よろしくお願い致します。