東京農業大学客員教授の高辻正基先生に原稿依頼。先生は、文理シナジー学会ではいつも度肝を抜く発表をされるが、今回の依頼は「随想」欄なので、なんでもいいんですよ、と伝えると、「じゃぁ、仏教について今研究しているので、それについて書きましょうか」だって。えっ、仏教ですか。この前までは、精神分析をご 研究だったのに。ラカンが羅漢さんになったということ?!。

以前書いたことだけれど、先生とは80年代の初めに、一緒にバリ島に行った。スタジオ200で開催された「バリ島の生態学」というシンポジウムにパネリストとして参加してもらいたくて、現地視察をお願いしたのである。当時まだ日立中研の主任研究員であった先生は植物工場の研究と平行してシナジーについて研究されていた。レーザー光が研究テーマであった先生は、レーザーが非平衡状態の開放系であることに注目し、ハーケンやプリゴジーヌの「非平衡状態における秩序形成」の問題と共振することになったのだ。

そして、ぼくは、そのシナージェティックスという概念が、バリ島の特異な精神文化の解明に使えるのではないかと思い、高辻先生にその仮説を話したところ、ものすごく興味をもってくれて、シンポジウムの参加を快諾しただけでなく、ぼくと一緒にバリ島まで付き合うことになったのである。

先生は、とにかく好奇心旺盛だ。そのあと、シナジーが人間の恋愛の究明に使えるとわかると「愛」の問題に入っていき、それがまた「こころ」の問題と密接にかかわるものだとわかって、今度は精神分析に知的触手を伸ばしていった。そして、ついに仏教だ。もちろんその間にも、ヘーゲルやベルクソン、株や金融工学をやり、もちろん専門分野の植物工場は、市場規模数兆円といわれるビッグビジネスへ育てあげた。

ともあれ、ますますお元気な高辻先生、おそらく仏教がエンドポイントとはならないだろう。きっとまた新しい分野へアプローチしていくに違いない。なにぶん先生の家は、ぼくんちのそばなんで、そのあたりのことを、今度聞きにいってみよう 。