恵比寿のMA2Galleryで始まった「BLACK,WHITE & GRAY」展へ。以前ブログでも紹介した山本基さんのインスタレーションを始めて見る。「迷宮」と題されたシリーズは、塩(を使用して描かれる)の線が、幾重にも引かれ、複雑な迷宮の世界をつくり出す。今回は、大きなガラス窓の一部を源泉にした塩製の水脈が、一度台地を形成し、しだいに微細な迷宮へと形を変えながら拡散していく。白いラインが入り組みながらまるでクモの巣のように床全体に張り巡らされている感じだ。無色透明な結晶構造は、光を与えられると乱反射を起こして白色になる。それは、単なる回路に過ぎないニューラルネットに刺激を与えると、それまで眠っていたさまざまな記憶が立ち上がり、物語という物質を生成する脳内過程を彷彿させる。生命の源でもある塩という物質が導き寄せた「迷宮」という名の記憶。この迷宮をたどることで、しばし、ぼくはぼく自身の記憶の旅を愉しませてもらった。山本さんは、インスタレーションの他にドローイングの作品と塩を材質にしたオブジェ、平面作品を展示している。
今回の展覧会は、他に関根直子さんのドローイング、藤井保さんの写真とのコラボレーションである。スタイルも表現方法も全く異なる3人の作家が、同一の空間にそれぞれの居場所見つけ出してつくり出したモノトーンの世界は、唯一無為のものだ。ひさしぶりに強いインプレッションを得る展覧会だった。
会場で、塩事業センターの大庭さんと再会。大場さんは、「迷宮」を見て、アステカ文明の残したレリーフやナスカの地上絵を思い浮かべたというが、それは、ここで使用されている精製塩がそもそも中米産のものだからではないかという。文字通り塩の記憶の表象だというわけだ。う〜む、なかなかうまいことをおっしゃる。余談だが、山本さんの仕事を知るきっかけになったのは、茂木健一郎さんからの1本の電話だった。たまたま、金沢21世紀美術館でお二人はトークショーをやり、「en」の連載を思い出して、ご紹介いただいた。そして、ぼくは、「en」の発行元である塩事業センターの大庭さんへとつないだのだった。まさに、縁(「en」)は異なもの味なもの、ですね。
「BLACK,WHITE & GRAY」展