五感生活研究所の山下柚実さんから『客はアートでやって来る』(東洋経済新報社)を贈呈していただきました。というか、半月ほど前出版を記念するパーティが、この本の主人公「板室温泉 大黒屋」で行われ、代表の室井俊二さんにご招待いただき、その会場で頂戴したのでした。山下さんからようやく書店に並んだよというご連絡をもらったので、今日紹介することにしたのです。「アート」と「経営」を融合させた「奇跡の宿」"大黒屋"。なぜ、7割以上の客がリピーターになってしまうのか、なぜ、1週間以上滞在する客が1割もいるのか、なぜ、海外からも何百人もの客が毎年わざわざやって来るのか。「保養とアートの宿」をコンセプトに、「空間で楽しむアート」を旅館に取り込み、あらたな「アートビジネス」「旅館経営」で成功を収めているその秘密に、室井さんや従業員への取材を通して肉薄しようというもの。もちろん、山下さんが執筆するのですからありがちなビジネス書ではありません。彼女の重心は常に自身の身体に置かれ、これまでの著作同様五感(+六感)を全開にして、大黒屋と格闘しています。提灯記事にいつもうんざりさせられてしまう者にとって、ひさしぶりにちゃんとした「ビジネス」、つまり正直な仕事の本を読んだぞ、という気持ちになりました。働くこと、生きること、それは「楽しく働く」ことでなくてはなりません。では、それをどう実践していくのか。アートとはアルス(技芸)であり、古代ギリシアにおいては、智慧の意でもあります。そもそもアートと仕事とは一体だった。そんなことを私たちに思い起こさせてくれる一書です。 客はアートでやって来る