國學院大学文学部教授・高橋昌一郎さんから『哲学ディベート…〈倫理〉を〈論理〉する』(NHKブックス)を贈呈していただいた。
哲学ディベートとは何か。現代社会におけるさまざまな倫理的な問題に対して論理的には何が言えるか、それを考えるというもの。具体的にいえば、「現代社会で生じた現実の事件を論題として設定し、肯定側と否定側に別れてディベートを行う。ただし、(…)その目的は、その背景にどんな〈哲学〉的問題があるのかを論理的に掘り下げて」、今まで気づかなかったあらたな発想を見つけ出すことであり、一種の弁論術を養うことにもつながるという。
章ごとに、「あなたはなぜ正直なのか」→道徳から始まり、「食べるとはどのようなことか」→文化、「いかに産むべきか」→人命、「どのように罰すべきか」→人権、「何をしても許されるのか」→自由、「いかに死すべきか」→尊厳、といった倫理的問題が、先生と学生の討論という形式で展開していく。「普段あまり使わない思考や感情の回路をためされること」になるはずと著者は言うが、なるほどそうである。読み進めるとすぐに夢中になって、自分も学生(役)と同じように、けっこう真剣にその問題と向き合っていることに気づいて、はっとした。まんまと高橋さんの弁論術にはまってしまったというわけだ。
高橋昌一郎さんには、『談』no.69で「科学はなぜ嫌われるのか」というテーマでインタビューをしている。この時もディベートをすることの重要性を説いておられたが、その目的は相手を論破することではなく、あくまでもさまざまな意見を出し合い、比較しながら自分の考えを打ち立てていくことにある。哲学とは、遠くギリシアの時代から、聞くこと(他者の声を)、話すことだったのだ。そして、それはとてもわくわくする体験なのである。哲学することの愉しさをあらためて教えてくれる一書である。
哲学ディベート?〈倫理〉を〈論理〉する (NHKブックス 1097)