カフェ・ドゥ・ズミへ。お客さんは僕だけ。さっそくChateau Haut Mayor02 をあけて、マスターと乾杯?!。オーディオ装置の前にアナログ盤「john meets Sun Ra」のジャケットがたてかけてある。ぼくが興味を示すと、「これは、ある意味シンボリックだよね、聴いてみる?」とレコードに針を落す。
宇宙サウンドの創始者サン・ラのピヨーン、キューン、プニュプュというシンセの音がしばらく続く。短い沈黙のあと、静かにジョン・ケージのパフォーマンスが始まった。ウ〜ム、ウンニョラ、フリュラ、モゴゴゴ、ズンビラ……と、なんとボイスだ。お経のような念仏のような、ポエトリー・リーディングのような声が数分間続く。そして再び、ピヨーン、キューンのシンセである。
86年にNYでふきこまれた貴重な音源。現代音楽の源流であるケージとフリージャズの源流であるサン・ラの出会い。いわばルーツ同士の出会い系といったところか。なるほどそれでシンボリックというわけなのね。しかし、この臨場感ハンパじゃありません。いいオーディオで聴くということは、全く違う経験をすることだと納得する。まさに音のサプライズだ。
次は、ラテンもいいかなとCharlie Haden&Christian Escoudeのデュオ。John Lewisの「Gitane」、Django Reinhardtの「Balero」とか。3杯目のワインはおなじボルドーでも、ややボディのあるChateau Gachaw96 に(ぼくはこれが好き)。このワインならこの音、泉さんのチョイスはバイオリンのソロときた。Paul Gigerの「Chartres」。パリのシャトレでの88年のライブ録音。こりゃ、スゲー!!。グルーヴが半端じゃない。オールオーバーな音の世界。音の内部にはい込んでいく感覚だ。耳の肥えた人が言うところの「いい音」というのを、始めて自覚的に感じ取ることができた。でも不思議なことに生演奏を聴いている感じではない。全く新しい経験なのだ。目の前でたった今繰り広げられているはずの即興演奏。それはギーガーによるものだが、肝心のギーガーがいない。演奏者がいないまま、ギーガーのつくりだす音だけが、空間を埋め尽くしていく。不在のサウンド、演奏者のいないワンダーランド。つねに/すでに痕跡であることを運命付けられた音、の現前、としてのエクリチュール。デリダならこの事態をなんと評するだろうか。
なんであれ新しい経験をすると、生まれ変わったような気になるものだ。今日、ぼくは、カフェ・ドゥ・ズミで、新しい自分になったのだ。河本英夫流にこの経験を「気づき」と言っておこう。
サウンド・イメージ研究所/ラボ・カフェ・ドゥ・ズミ 
武蔵野市御殿山1-2-3 キヨノビル7F pm2:00〜10:00頃まで 月曜日定休
フリージャズを中心にクリエイティヴ・ミュージックばかりアナログ5000枚、CD3000枚のコレクション。6月から、7月17日のコルトレーン命日まで、いよいよ泉さん選曲による「フリージャズ」をその誕生期から聴きなおすプログラムがスタートする。