たった1本のろうそくから、その製法、燃焼、生成物質を語ることによって、サイエンスすることの面白さを教えてくれた『ろうそくの科学』。フェラディーのこの本を読んだ人は多いでしょう。ぼくは、ちょっと遅れて高校生の時に読みました。そのファラデーさん、じつはこんなことを書いていたのです。「いたるところでロンドンの大気を脅かしているものに、アンモニアと呼ばれる物質があります。この物質は、幾人かの工場主によって多く生産されているものですが、硫黄を含む蒸気やからだから発するミアスムと一緒になると、絵画を損ねてしまうことになりかねないでしょう。(…)絵画をたやすく傷めてしまうほどに、大気は、群衆のミアスムと蒸気で飽和しているのです」と。「ミアスム(瘴気)」とは、汗や唾液などのアンモニア性の発散物を通じて群衆の身体から発生する一種の臭気のこと。それが美術館では絵画に悪影響を及ぼすというのです。18世紀のロンドンのナショナル・ギャラリーに、労働者や黒人、娼婦たちが大挙して訪れた時に、それを見て語った一言です。どんなに優れた科学者でも、時代が時代なら、疑似科学に騙されることもあるという教訓です。もうすぐ書き終わるインタビュー原稿で、インタビューイーが著わしている本に出ていたちょっと気になる話。