『談』のインタビュー。東京大学総合文化研究科基礎科学科教授・金子邦彦さんを駒場に訪ねる。テーマは「生命システムをどのように記述するか」。「生命システムは、よくできた機械ではなく、いいかげんで複雑なダイナミクス。それが増殖する。その"増え続ける"ということに着目するとシステムの普遍的構造が見えてくる」。それを探り出そうというのが金子先生の研究であるが、そこで「増えていく時に変化してもほぼ同じ状態になり続ける"よどみ"」に注目する。「よどみ」とは何か。一種のマクロな安定性と考えられるのだが、ずっと留まり続けるわけではなく、常に変化するという特徴をもつ。増え続けながらも、その変化の過程で「よどむ」状態がしばらく続き、また変化を開始する。マクロとミクロの関係が循環しているような構造になっているというのである。熱力学であれば、平衡系に閉じてマクロな性質だけで記述できるが、生命システムは、マクロ→ミクロ→マクロと変化していく過程で、いったんバランスを保つ(それが「よどみ」)が、しかしそれで終わらずに、また変化していく。こうした性質は、これまでの力学系で記述することは難しい。そこで、金子先生は、「大自由度力学系」を構想するのである。
物理学でなんらかの状態を表す場合、たとえば3つ種類があれば、3次元空間の1点で表すことができる。ところが、生物=細胞には、途方もない数の化学成分がある。仮に10万種類の成分があれば、その状態は10万次元の中の1点であり、しかも厳密にそれと決定できない、そのあたりということでしか表せない点である。さらには、それがどんどん変化していくのである。生物を機械とみなし、これまでのシグナル伝達系として記述しようとすると、この複雑さと変化の状態は、往々にしてプログラムのエラーとか突然変異といったものとして記述されてしまう。しかし、まさにその複雑さと変化が生物の特性であり、それはエラーでも突然変異でもなく、それこそ生物の進化そのものではないかという。これまで、適応、発達、進化はそれぞれ別々のフェイズで捉えられていたが、それを一つの論理で見通せることになるわけだ。さらに階層性の解明にも示唆を与える。
クラウジウスの熱力学の登場によって環境というものを物理学の対象にすることができて、生命現象に一歩近づくことができたわけだが、大自由度力学系はそれをさらに進めて、生命システムそれ自体の究明へと向かう。それは、金子先生のいう普遍性の解明だ。
クラウジウスの熱力学の登場によって環境というものを物理学の対象にすることができて、生命現象に一歩近づくことができたわけだが、大自由度力学系はそれをさらに進めて、生命システムそれ自体の究明へと向かう。それは、金子先生のいう普遍性の解明だ。
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