『談』2号分の特集を同時に編集している。今日は、京都大学大学院・人間・環境学研究科教授・岡田温司さんのインタビュー。No.77号の特集テーマは「〈いのち〉を記録する……生命と時間」。 「(…)「生命」=「いのち」とは、それ自体で運動し、絶えることなく生成し続けるものである。静止するということが原理的にはありえない物質である。常に「時間」が入り込んでいる。「生命」科学が、「複雑性」の科学にならざるを得ないのは、この「絶えざる運き」を記述することが、物理学を主軸とする旧来の科学では厳密な意味で不可能だからだ。生命システムを捉えるには、「複雑性」の科学へ踏み込んでいかざるを得ない。これまでの「いのち」を記録する視点に決定的に欠けていた「時間」を組み込んだ、新たな生命科学の可能性を探る」というのが趣旨。 複雑系科学の第一人者と気鋭の脳科学者のインタビューと対談を予定しているが、岡田温司さんには、少し視点を変えて、芸術作品の中に内包されているはずの「いのち」をわれわれはどう評価し、どのような方法でアプローチしてきたかをお聞きした。芸術作品と「いのち」、そしてその時間について。 岡田温司さんは、先頃『芸術(アルス)と生政治(ビオス)』を上梓された。芸術作品の底流に息づく「生政治=バイオ・ポリティックス」の実態を明らかにした好著だ。「絵画の衛生学」と称した章で、保存・修復という行為がじつは作品における「生政治」ではないかという議論を展開している。芸術をめぐる言説に時間が入り込むとすれば、きまってそれは永遠や不死というかたちをともなう。芸術作品にも寿命があり、老いる権利があるというの岡田さんの眼には、現代の保存・修復へのまなざし・行為こそ、「生政治」の実践と映る。芸樹作品の保存・修復へのまなざし・行為と近代の衛生思想、健康志向は、みごとに通底しているというのだ。 保存・修復をよしとしてなんの疑いも持ってこなかったわれわれにはまさに青天の霹靂である。インタビューの内容は、本誌でじっくり読んでいただくとして、ひとつだけ小ネタを紹介すると、岡田さんは無類のオシャレさんでした。茶髪を立たせて、ブルーの縞のシャツにはでな赤い柄のベルト、縦じまのパンツにいかにも高級そうなイタもののシューズ…。さすが、イタリア美術の専門家はちがうと思いました。ほんとうにぼくと同じ年齢ですか?