京都大学大学院農学研究科教授・伏木亨さんのインタビュー。コクとキレという本来対立する概念が酒においてなりたつか、というテーマ。コクがあるのにキレがある、TVにはじめてこのキャッチコピーが登場した時、「そんなばかな」と思ったものだ。しかし、飲んでみるとわかるように確かに共在しているではないか。ならばビールだけでなく醸造酒の清酒やワイン、焼酎などの蒸留酒でもそれはいえるのだろうか、コクの研究の第一人者である伏木先生をお訪ねした理由だ。伏木先生は面白いことをおっしゃった。たとえば、清酒のコクは、だれでもわかるようなコクではなく、ある意味ではイメージとしてのコクだというのである。伏木先生はコクを三層構造から捉える。糖、脂、ダシからなる第一の層。食感や香り風味といった第二の層。そして精神性からなる第三層。たとえば清酒は、コクの基盤となる第一の層はほとんど面影のようにしか存在しなくて、むしろコクのもつ芳醇な膨らみといったイメージが先立つというのである。言い換えれば、実体のないコクが清酒を清酒たらしめている。しかも、われわれはそこに品位すら感じとっているというのだ。「淡麗辛口」の酒を求めるわれわれの味覚は、じつは大変に高次なことをしているということになる。「コクがあるのにキレがある」。このキャッチはとても奥深い酒の味わい方、奥義のようなものなのだよ皆の衆。おそれいったか。というわけで、小泉武夫さんの酒論は、伏木コクの理論によってもみごとに立証されたというわけである。それにしても、実体のないものに風味や旨味を感じるなんて、いやはやなんとも。日本人はとんでもない舌を発明してしまったものだ。
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