千葉県佐倉の国立歴史民俗学博物館へ。研究部民俗研究系助手・青木隆浩さんに「酒」への寄稿をお願いするため。青木さんは、『近代酒造業の地域的展開』(吉川弘文館)という単著がある若い民俗学者だ。ぼくが注目したのは、近代日本の飲酒、喫煙と社会的規範の関わりを考察した興味深い発表を聞いたからである。その発表の下敷きとなった論文をご本人からいただいた。冒頭には次のような文言が記されてあった。「もし、未成年者の禁酒・禁煙について根拠を求められた場合、何と答えるだろう。一般には、法的規制や健康の保持を理由にするのではないか。しかし、法律に求める見解は形式的であって本質的な解答にならず、また健康は個人差があるため年齢制限の根拠にならない。(…)本研究で明らかにするように、未成年者の禁煙と禁酒は今や常識化している教育的措置として定められたのではなく、アメリカの上層文化を輸入して下層民の貧困や衛生、風紀を管理するために制定された。この点から、未成年者の禁煙・禁酒は、根拠の不明瞭な社会規範が後から以前と異なった意味にすり替えられた典型的な事例であるといってよい」。なんと、なんと、常識化している未成年者の禁煙・禁酒は、じつは確たる根拠などなく、きわめて政治的な配慮から法律化されたにすぎなかったというのだ。しかも、その事実を青木さんは柳田國男のテキストに発見したというのである。明治政府の行った禁煙・禁酒政策は、驚くほど知られていない。というか、忘却させられてしまっている。こうした禁煙・禁酒政策に大きな影響を与えたのが、キリスト教系の禁酒会リーダー根本正と社会鍋の救世軍リーダー山室軍平である。彼らと当時の内務省が二人三脚で取り組んだ政策こそ未成年者の禁酒・禁煙だったのだ。この興味津々の内容、3月に発売される「shikohin world/酒」に掲載予定ので楽しみにしていてください。
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