シンポジウム「飲むことの様態とその世界:グローバリゼーションにおけるワインと酒」の第1セッション「ワインと酒:文明的な飲料」、第2セッション「地方と味覚」に参加する。このシンポは、ブリア・サヴァラン生誕250周年を記念して日仏会館と東京日仏学院が合同で行う「飲むことと食べること〜Boire et Manger〜」の企画の一つ。会場には、今回の司会のお一人早稲田大学教授の福田育弘さんがいらっしゃった。福田さんには、『談』no.61「ワイン、身体、ピュシスの力」でピアニストの横山幸雄さんと対談をしていただき、その後も、雪印のPR誌『SNOW』で2年間連載をお願いした。ご挨拶をすると、ちょっと驚いた様子。それもそうだろう、たぶん最後にお目にかかったのは前世紀末だから。
明日東京日仏学院の方で開催される「討論会:料理と飲物の調和、今、昔」にもいく予定だと伝える。福田さんはこっちの討論会ではパネリストの一人に名を連ねている。さて、最初のフランス国立農学研究所のジル・ラフェルテさんの発表が始まった。「ワインの品質と市場管理のための政治的・文化的闘い:ブルゴーニュワインを例として」がテーマ。ワインのイメージの向上を図るためにブルゴーニュワインがとった戦略とは、郷土性、地方性に注目することだった。「田舎」「農村」「自然」を武器とするマーケティング戦略。ボルドーワインがグローバリズムに乗って世界商品という位置を獲得しつつある時に、ブルゴーニュワインはリージョナリズムという立場にたって市場を支配しようとしている。ボルドーワイン/ブルゴーニュワインをマーケット・シェアの闘いとして捉え直してみるというのが、ここ数年ぼくが考えていたことだった。はからずもそれと同じアイデアをフランスの若い研究者が考えていたのだ。二人目は東京大学大学院経済学研究科助手・宮地英敏さんの「日本の食卓における酒の位置の変化」。吟醸酒、純米酒、本醸造に光をあてることで開拓した日本酒の新たな市場を、今、焼酎がそっくり奪おうとしている。辛口嗜好にその鍵があるという指摘。3人目は、国立歴史民俗博物館の青木隆浩さんの「近代日本の禁酒運動」。この発表は面白かった。未成年者の飲酒、喫煙を禁止している法律の成立を歴史的に検証すると、驚くべきことにそこに確たる根拠がなく、日本禁酒同盟の政治家・根本正の執拗な働きかけで成立したものだというのだ。自明のように思われている「お酒もたばこも20歳になってから」が、じつは政治的な駆け引きの産物だった。ここでも「健康」という概念が呪文のように利用されたのである。日本に禁酒運動があったというのもおどろきたが、未成年の喫煙にもじつは根拠が希薄というのは傾聴に値する指摘だ。あと3人発表があったが、ぼくはここで退出。それでもたっぷり4時間。実りあるシンポだった。