PCのサポートセンターといえば話し中か「しばらくたっておかけ直し下さい」の代名詞でした。ところが、最近ほとんど数回のコールでオペレーターが出てきます。この激変ぶり、なぜかと思っていたら、じつはぼくたちは中国と電話をしていたのでした。中国は人件費が安いのでたくさんのオペレーターを雇うことができます。それだけ回線も多くとれるというわけです。でも、それっと国際電話でしょ、回線使用料が高いんじゃないのか。ところがさにあらず、ぜ〜んぜん平気なんですね。なぜならIP電話を使っているからで、ほとんどタダ同然なんですって。うわ〜、そうだったのかと驚いてはみたものの、でもすぐにまた新たな疑問が湧いてきました。IP電話って、どうしてそんなに安いの?

IP電話とは、簡単にいってしまうと、IP(インターネット・プロトコル)を利用することで、いわば仮想の内線ネットワークを構築することなのです。加入者同士ならば内線をかけているのと同じことになるので、当然通信コストは破格に安くなるというわけ。つまり、オペレーターは中国にいようがインドにいようが、内線でつながっているのです。
そんなに安いものだから、今企業を中心にIP電話の加入者はどんどん増えています。通信会社もいっそみんなIPですませちゃおうと画策しているくらいです。安くてバンバンザイ、メデタシ、メデタシといいたいところなんですが、じつはここには大変な落とし穴が隠されているのです。IP電話になるということは、すなわち音声情報もIP化するということ。どういうことかというと、音声情報がダイレクトにPCと直結するということです。たとえば、留守番電話の録音データをボイスメールとしてPC上で開き、その音声データをメールとして送受信するなんてことも簡単にできてしまう。ということは、音声データをすべてログとしてとっておけるということなんです。ついに電話でのひそひそ話ですらもサーバ側が管理してしまう。そんな「履歴が残る」社会、すべての個人の「履歴」が丸裸になった社会に、僕たちはまた一歩近づいてしまったということです。
こんなことを書いたのは、森健さんの『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか? 情報化がもたらした「リスクヘッジ社会」の行方』を読んだからです。IT技術によって現実化しつつあるIP社会、とてもとても恐ろしい世界です。「en」11月号でも紹介しましたので、ぜひ一読をお薦めします。