厚労省の会議室で開催された「第6回フードガイド(仮称)検討会」を傍聴する。「フードガイド」とは、健康を維持するために何をどれだけ食べたらいいかがひと目でわかるようにグラフィック化したもの。ピラミッド型のアメリカのものや4分の1の円版型のカナダのものがよく知られていて、それと同じようなものを日本でもつくりたいと、厚労省、農水省、文科省を中心に検討が進められてきた。その最終案(グラフィック)が本日決定するというのでのこのこ出掛けたのである。健康寿命とQOLの向上を目標とする「健康日本21」、その普及・啓蒙を目指す「食生活指針」、それに次ぐいわば最後の切り札となる強力ツールが「フードガイド」である。農水省は食糧自給率の向上に寄与するものと期待しているが、厚労省は端的に生活習慣病の予防が最大の目的だ。生活習慣病を防ぐためには「何を」「どれだけ」食べるかを明確にし、国民ひとりひとりにそれを実践させようというわけだ。さて果たしてどんなデザインになったか。
コマがモデルに選ばれた。摂取量の多いほうから、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物が逆円錐状になったコマ。中心の心棒が水やお茶。そして、それを回す糸が菓子や嗜好飲料。ではなぜコマなのか。委員の説明によると、コマはバランスよく回ってないと倒れてしまう。常に一定の速度で回り続けていなければならない。逆に言うと、回り続けているかぎりバランスは保たれているということになる。この回り続けているということが、身体運動を示しているらしい。なるほどねぇ。よく考えたものだ。と感心している場合ではないぞ。考えてみるとこれってけっこう怖くないか。コマは周り続けていなければコマにならない。そのためには、バランスよく食べていなければならないし、一度アンバランスな食事をしたならばたちまち倒れて止まってしまう。それってつまり死ぬってことか? 一度止まってしまったコマは、誰かに回してもらわないかぎり再び回ることはできない。倒れず止まらず回り続けるためには、国の決めた食事を文句も言わず食べ続けなくてはいけない。
しかし、「何をどう食べるか」って国が決めることなのか。そもそも、食事は食事をする人間の営みだ。徹底的に個人(主体)に根差した営みである。われわれはいったいいつから、この最も根本的な営みを、余所様に、つまり国に譲り渡したのか。しかも、びっくりしたのは、「フードガイド」という仮称が、本日の会議で「食事バランスガイド」に突如変更になってしまった。「フードガイド」は「何を」「どれだけ」食べたらいいかという案内役(カタログ)的であくまでも食品の紹介。ところが、「食事バランスガイド」という言い方は、食品の紹介というより、調理、食べ方にまで踏み込んでいる。だから、これは食育の一貫でもあるというわけなのだ。『談』でしつこく追究しているように、健康でいたいと思う気持ちはごく普通の感情だが、それが目的化してしまうととたんにおかしなことになっていく。そもそも健康はなりたいものではなくてなるものだ。食べるってなんだろうか。とても難しい問題だが、少なくとも命令されてすることではないことだけは確かである。食べたいから食べる。それ以外のどんな理由があるのか。食による身体管理。つくづくとんでもない時代になったものだと思う。