高知大学医学部教授・佐藤純一さんと国学院大学経済学部・野村一夫さんの対談。
対談は、佐藤さんの論文「生活習慣病のつくられ方」を話題の中心にして始める。近代医学は病因論(実体論)から始まったが、成人病では病的状態を特定できなくなってきた。そこで近代医学はリスク論を導入する。ところが、確率的解釈であるはずのリスクを実体として把握しようとしたために混乱が起こる。リスクを治療対象にしてしまったのだ。佐藤さんは、これをリスクファクターのモノ化という。しかも、リスクファクターの特定は恣意的に選択されている。WASPの価値観が反映されているのである。医療の生活空間への介入が始まる。さらに、現代ではこの医療化が、民間医療、代替医療、東洋医学などの非近代医学をも取り込もうとしている。いわばメタ・メディカライゼーションとも呼べるような事態が起こりつつあるのだ。一切が健康/病気のまなざしにさらされる時代、こうした時代相を「生-政治」の徹底化とみるならば、いよいよフーコーの分析が有効力を発揮してくるといえる。そして、フーコーのこの権力分析を「ゾーエーとビオス」という概念から読み直したアガンベンの政治哲学もまた、重要な概念装置となりうるのだ。非近代医学は近代医学の批判の拠点になるどころか、近代医学の先兵として機能するようになったという指摘は、傾聴に値する。