感覚変容の様相に迫る『近代日本の身体感覚』

no.67「リスクのパラダイム」でインタビューをさせていただいた北海道教育大学釧路校助教授・北澤一利さんから、『近代日本の身体感覚』(青弓社)を贈呈していただきました。12人の若手の研究者による論文集で、北澤さんは国際日本文化研究センター教授・栗山茂久さんとこの本の編者をされておられます。身体の基層部で絶えず変容を強いられる感覚について、医療、美、視覚化、身体化、こころといった視座から、その変容の様相に迫ろうという意欲的な企画です。個人的な舞踏への関心から、榑沼範久さんの「〈人間化〉から〈動物化〉へ…舞踏家・土方巽の〈肉体の反乱〉」、それと、やはり北澤一利さんの「栄養ドリンクと日本人の心」を興味深く読みました。感覚変容の問題を論じる場合、表象論やイメージ論で語ってお茶を濁す場合が多いように見受けられますが、この本では感覚変容を現象として捉え、実証的な検証を踏まえて考察されているので、どの論文も説得力があります。一読をお奨めします。
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上松次敏さんの画集

たとえば、サクラダファミリアやサン・マルコ大聖堂を俯瞰し、二つの視点から同じ画布に描くことを想像してみて下さい。そんなことほんとにできるの? それができるんですね。上松次敏さんは、画布の中にこれまで誰も見たことのない複眼的な視点を持ち込んで、世にも不思議な絵画世界をつくり出しました。
『談』no.42のヴィジュアルとして掲載させていただいた作品を含む241作品を一堂に集めた『上松次敏作品集』が鉱脈社から刊行になりました。個人的には、『談』に載った「バベルの塔」が好きですが、ブリューゲル(父)「十字架を担うキリスト」やボッス「快楽の園」をやはり同じ方法で描き上げた作品にも感動します。なにより驚くのは、これらが皆手描きだということ。CGのない時代に絵画技術を駆使してCG以上のイメージを創造したその造形力に感服します。
『上松次敏作品集』
鉱脈社 5000円
問い合せは、tel 0985-25-1758
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次号の特集テーマは…

TASCで編集企画会議。次号と次々の特集テーマを決めました。no.72は「公共性と例外状態」。「自由と暴走」「匿名性と野蛮」との三部作の完結編になります。no.73は振り出しに戻って新しいシリーズを始めます。タイトルは「いのちのディレンマ」(仮題)。生命科学と社会の接点で発生している問題に迫ります。一応no.72は、11月末、no.73は、05年2月末の発行予定。
ところで、青山ブックセンターが再スタートします。すでに、新宿2店舗と自由ケ丘店はブックファーストに生まれ変わって販売を始めていますが、いよいよ本店(青山)と六本木店が青山ブックセンターとして再開です。『談』もこれまでと同じように並べていただけるようなので、みんなでガンガン買って応援いたしましょう。

Blogに最新号の紹介やコメントがのっています

最新号について、いくつかのBlogで紹介やコメントがのっています。とくに「はてな」の書き手がいち早く取り上げてくれていました。また「ココログ」にも。そのなかの一つ「oba」さんの読書日記 ところで、本誌に誤植を発見。北田暁大さんのプロフィールにある著書『責任と正義』が岩波書店となっていました。勁草書房の間違いです。みなさんどうもすみません。Web版は訂正ずみです。

「トランス・ヨーロッパ」は融合への衝動

二日にわたってライブに行ってしまいました。渋谷0-EASTでの「トランス・ヨーロッパ・フェス」。1日目がシンク・オブ・ワンで2日目がKiLA。シンク・オブ・ワンはベルギーのバンド。彼らは世界のさまざまな場所に赴いて、現地のミュージシャンと寝食をともにしながらアルバムをつくるということをやってきました。今回は、最新アルバムでコラボレーションしたブラジルのミュージシャンと来日。ジャズ、ロック、フアンクをある時はダブに、ある時はアラビックにアレンジして、最終的にはラテンフレイバーをまぶしつつブラスバンドで出力するという離れ業をやってのけます。 一方のKILAは、アイルランドのバンド。アイルランドの伝統音楽トラッドをベースに、アフロ、カリブ、ジプシー、ファンクがミックス。こっちは、それをサイケデリックでダンサブルなトランスで出力。哀愁をおびた熱狂ダンス系という、これまた二つと無い破天荒な音楽をつくり出します。両者に共通しているのは、融合への強い欲動。グローバリズムとは正反対の、自ら越境し他者と溶け合い、渾沌化することへの力強い肯定の姿勢。寛容さを失い、「過防備都市」(五十嵐太郎)へと急速に向かいつつある僕たちの社会にとって、彼らの音楽は強烈な批判言語となります。「やっぱり必要なのは文化のクレオール化だ」、そんな強い気持ちが吹き出してきました。とはいえ、頭をカラっぽにして踊り続けていたわけですけどね。続きを読む

木田元先生の読書会

木田元先生の取材用レジュメの作成。先生の本はとっても読みやすいと改めて思いました。レジュメがつくりやすいからです。それは、構成と論旨が明確だからでしょう。中央大学へ。すでに退官されておられるのですが、毎週月曜日に読書会をなさっていて、そのために大学に来られるのだそうです。読書会は、72年からほとんど休むことなくやられているとのこと。なんと30年以上! 中には結婚されて今では主婦として参加している方もおられるとか。読書会ではここのところずっとハイデガーの講義録をテキストにしているとのことでした。もちろん原書。現在の関心はとお聞きしても、ハイデガー、何か面白いものはと聞いてもハイデガー、とにかくハイデガーなのです。でも、インタビューは大変面白かった。粉川哲夫さんのことも知らなければ、「中国女」にフランシス・ジャンソンが出ていることもご存じなかった(先生はジャンソンの唯一の邦訳『現象学の意味』の訳者)。現象学もメルロ=ポンティもユクスキュルもあのマッハでさえもハイデガーに流れ込んでいく。でも、最大のキーパーソンはシェーラーだというのが、最近の先生の発見。ご友人をだいぶ亡くされて寂しいようですが、先生は元気溌剌。まだ頼まれている翻訳の仕事が山のようにあって、「自分の本がかけないよ」とにこにこしながらおっしゃっておられました。インタビューは「en」の10月号に掲載されますのでお楽しみに。

プラトンというあだ名

来週「en」で木田元先生にインタビューをするんで、先生の著作を読んでいます。先生は、『現象学』(岩波新書)、『メルロ=ポンティの思想』(岩波書店)、『ハイデガー』(岩波現代文庫)といった論文集ばかりではなく、『闇屋になりそこねた哲学者』(みすず書房)とか『哲学以外』(みすず書房)といったエッセイ集も何冊か出されています。じつは、こっちの方もなかなかに楽しい。先生は戦後ほんとに闇屋をやっていて、けっこうなぼろ儲けをしたようですが、それで一家を支えていらっしゃったのだそうです。ところが、『存在と時間』に出会ってしまって、どうしてもこれを読み終えなければならないと決意されて、哲学を始められたというのです。やはり、非凡な人は何かがちがいます。ところで、『哲学以外』にこんなエピソードがありました。プラトンはじつはあだ名で、本名はアリストクレス。〈プラトン〉は〈幅が広い〉という意味の形容詞〈プラテュス〉からつくられた名詞。だから、プラトンはさしづめ〈ひろし〉さんといったところだと先生はおっしゃいます。なんか愉快な話だと思いませんか。

三省堂神田本店(神保町)でトークセッションと講演会

『談』最新号にご登場いただいた東京大学大学院情報学環助教授・北田暁広さんが筑波大学大学院人文社会科学研究科教授・若林幹夫さんとトークセッションを行います。若林さんは僕が企画編集に関わっているもう一つの季刊雑誌『City&Life』で、原稿をご執筆いただいたり、建築家の長谷川逸子さんらと座談会にご出席いただいたり何かと縁のある研究者のお一人です。テーマは「都市=メディアの交わるところ 空間の文化政治学」。
もう一つは、神戸大学理学部教授・郡司ペギオー幸夫さんの講演会。『原生計算と存在論的観測』刊行記念に合わせて同名のテーマで行われるもの。郡司さんは、『談』no.59「老いの哲学」で大澤真幸さんと対談を行っています。生命とは何か? 時間とは何か? この人類最大の問いに「内部観測」からいかにしてアプローチするか。
どちらのイベントも興味津々です。
●「都市=メディアの交わるところ 空間の文化政治学」
日時:9月3日(金)18:30〜三省堂書店 神田本店8階特設会場
参加費:500円
●『原生計算と存在論的観測』刊行記念講演会 
日時:9月18日(土)14:00〜(開場13:30)会場:明治大学アカデミーコモン
参加費:500円(税込)
いずれも、申込先は三省堂書店神田本店 03-3233-3312(代表)トークセッション、講演会係

最新号 no.71 発売!

『談』no.71 最新号特集:匿名性と野蛮
■<対談>匿名化するメディアからメディア化する匿名性へ
……2ちゃんねる、Blog、チャットのディスクール 斎藤環×北田暁大
■ゾーエー、ビオス、匿名性          小泉義之
■匿名性……ナルシシズムの防衛    酒井隆史
■editor's note before…… 匿名性の意味を問い直す
■editor's note after…… 寛容さと自由な空間
■書物のフィールドワーク

最新号詳細

佳村萠さんの「うさぎのくらし」

渋谷公園クラシックスへ。佳村萠さんのソロアルバム「うさぎのくらし」発売記念ライブに行きました。佳村萠:歌/詩・鬼怒無月:ギター・勝井祐二:ヴァイオリン/ゲスト・SACHI-A:ドラム・坂本弘道:チェロ・松永孝義:ベース・羽田野烈:映像。
フジロックフェスティバル04の「渋さ知らズ」と「チビズ」の演奏に興奮してからまだ半月も経っていないのに、再び勝井さんのヴァイオリンが聞けて感激。(日比谷野音の「ROVO」のトランシーな演奏もよかったですよ)。鬼怒無月さんはTrabandの来日公演でWearhouseの一員として演奏したのを見て以来です。今日のギターは、静謐で幾分湿り気を含み、あいかわらずからだに響く音をつくっていました。しかし、なによりも佳村萠さん。すごくよかった。歌のようなポエトリーリーディングのような。混然一体となった声が、不思議な抑揚とリズムをともなって発せられる。会話のようでもあリ独語のようでもあり。そうそうたるミュージシャンをバックに一歩も引けを取らない。というか、彼らをうまくリードしている感じにもみえました。控えめだけれど、すべてを肯定していくその姿勢。改めて詩の力を知らされました。会場には中川五郎さんの姿が。帰りにCDを買ったら、五郎さんがライナーノーツを書いていました。五郎さんも好きだったんですね。
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●最新号

No.131
空と無
 
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No.93以前のバックナンバーにつきましては、アルシーヴ社(03- 5779-8356)に問い合わせください。

No.130
トライコトミー……二項対立を超えて

No.129
ドロモロジー…自動化の果てに

No.128
オートマティズム…自動のエチカ

No.127
自動化のジレンマ
 
 
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