書店発売に先立ち、一足先に『談』ウェブサイトでは、各登壇者のアブストラクトとeditor's noteを公開します。
右メニューバーの最新号no.122の表紙をクリックしてください。

『談』no.122 特集「社会的投資戦略とニューノーマル2.0」
(ニューノーマル2・0の世界」の第2回)

■企画趣旨
政治のなかで社会政策と投資を関連させる議論をよく見るようになった。たとえば、貧困を含むさまざまな困難を抱える子どもや若者への支援をしばしば「未来への投資」「社会への投資」という言い方で表現することがある。こうした表現の裏には、国ないし社会が得られる将来の利益を期待し、その利益を生み出すことが見込まれる人や資本に対して、前もって公的資金などの財物を提供するという考えがあると思われる。このような視点に立った議論は、社会的投資(social investment)論と呼ばれている。
ところで、リーマンショック後の世界経済について、景気が回復したとしても以前の状態に戻らないとする「ニューノーマル」という概念を提唱したエコノミストのモハメド・エラリアン氏は、コロナ・ショック後の世界を新たに「ニューノーマル2.0」と名付けた。「ニューノーマル2.0」は、経済のみならずパラダイムそのものが後戻りできない崖っぷちの状態にあることを示している。まさに「ニューノーマル2.0」のなかで資本主義、福祉国家、民主政治の三者の関係が瓦解しようとしているのだ。
グローバルな市場形成を伴った資本主義の非物質主義的転回は、雇用や家族の変容を通して、これまでの福祉国家が対応できない社会的リスクを広げた。既存福祉国家が対応しきれない「新しい生活困難層」を拡大させたのである。「新しい生活困難層」への対応を軸に資本主義、福祉国家、民主政治のつなぎ直しが求められているのだ。それは、「第三の道」とも「北欧モデル」とも違う、さらにはベーシックインカムともベーシックサービスとも異なるベーシックアセットを構想することだ。

■宮本太郎インタビュー
ベーシックアセットの保障へ
すべての市民に同額の現金給付を行うベーシックインカムについて関心が集まっている。ローマ教皇までがベーシックインカムの必要性を説き、日本でも竹中平蔵がベーシックインカムを提起して話題となった。一方、ベーシックサービスという考え方も提起されている。ベーシックサービスとは、すべての人々がその負担能力の如何に依らず、ニーズを満たすうえで基本的で十分なサービスを受けることができることを指す。ここでいうサービスとは、公共サービスのことで、医療、教育、ケア、住宅、輸送、デジタル情報へのアクセスなどを包括する。これらに対して、今、急速に注目され始めたのがベーシックアセットだ。アセットとは、ひとかたまりの有益な資源という意味で、その意味で言えば現金給付も公共サービスもアセットである。最適なサービスと必要な現金給付を組み合わせて人々を社会(コミュニティ)につなぐために、ベーシックアセットのビジョンを練り上げ、実現化していくことが今強く望まれる。
宮本太郎(みやもと・たろう)
1958年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。総務省顧問、内閣官房国家戦略室を歴任。現在、中央大学法学部教授。専門は、比較政治、福祉政策論。
著書に『貧困・介護・育児の政治:ベーシックアセットの福祉国家へ』(朝日選書 2021)、『共生保障:〈支え合い〉の戦略』(岩波新書 2017)、『地域包括ケアと生活保障の再編』(赤石書店 2014)他がある。

■駒村康平インタビュー
サスティナブルファイナンスの可能性…より良い循環を生むための投資戦略
昨今、SDGsの推進のために「サスティナブルファイナンス」、具体的には、環境・社会・企業ガバナンスの公正さを重視したESG投資、兵器産業や化学エネルギー企業から投資の引き上げる「ダイベストメント」などが注目されている。企業が株主のみの利益から、より社会全体のことを考えるようにコーポレートガバナンス改革をするなど、金融を通じて、社会の可能性を広げていこうという考えも定着しつつある。企業が今後環境や社会、適切なガバナンスを重視するようになるかどうかは、機関投資家の評価にかかっているといっても過言ではない。社会経済をよりよく循環するための投資戦略をいかに構想するか。ニューノーマル2.0の時代の課題である。
駒村康平(こまむら・こうへい)
1964年生まれ。中央大学経済学部経済学科卒業。通商産業省、社会保障研究所(現:国立社会保障・人口問題研究所)研究員、慶應義塾大学大学院経済研究科博士課程単位取得満期退学。国立社会保障・人口問題研究所研究員、駿河大学経済学部助教授、東洋大学経済学部助教授を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授、ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長。厚生労働省顧問、社会保障審議会委員、金融庁金融審議会委員、社会保障制度改革国民会議委員など。専攻は社会政策。編著書に、『みんなの金融 良い人生と善い社会のための金融論』(新泉社 2021)、『社会のしんがり』(新泉社 2020)、『中間層消滅』(KADOKAWA/カドカワマガジンズ 2015)他がある。

■霤長称せ劵ぅ鵐織咼紂
補償から準備へ…社会的投資の発想転換
ケインズ主義的な需要喚起型の経済政策が有効性を発揮し完全雇用を支え、そこにベヴァレッジ報告に基づいた社会保険を連携させて人々の生活を保障する仕組みは、ケインズ=ベヴァレッジ型福祉国家と呼ばれてきた。ケインズ=ベヴァレッジ型福祉国家を知識基盤型経済が台頭する21世紀の経済社会に見合う形でアップデートする試みは、1990年代終わり頃より「社会的投資」と呼ばれながら展開されている。社会的投資とは具体的にどのような考え方なのか、それはいかなるかたちで人々の生活を保証する仕組みとなりうるのか。ケインズ=ベヴァレッジ型福祉国家の変容という観点から検討する。
霤長称せ辧覆呂泙澄Δ┐蠅魁
上智大学大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(法学)。上智大学グローバル・コンサーン研究所特別研究員、千葉大学法政学部特任研究員を経て、現在、立教大学コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科准教授。専門は、比較政治学、福祉国家論。
主要論文に「知識基盤型経済における社会保障:社会的投資国家の可能性」雑誌『思想』2020 年8月号 no.1156(岩波書店)、共著書に『社会への投資:〈個人〉を支える〈つながり〉を築く』(岩波書店 2018)他がある。

◎表紙・裏表紙は上田碌碌の水彩画。また、ギャラリーではJunya Watanabeの写真作品を掲載