『談』no.86特集「エンボディメント……人間=機械=動物の身体」

荒川修作+マドリン・ギンズの「三鷹天命反転住宅」について河本英夫氏はこう評しました。

「天命反転住宅の外見は凄まじい。色も形も、およそこの世の住宅とは思えないほど科学的である」。壁面の配色は、赤、青、緑、黄、灰色からなり、形体は、円筒、半円(ハーフパイプ)、球、四角の組み合わせ。また室内(集合住宅)の壁は、曲率をもってそりあがり、床は傾き、床の表面には一面鱗のような小さな突起が突き出ています。天井にはフックが設置されていて、家具類はこのフックに吊り下げて置かれる。

確かに、世界に一つとして存在しない孤立無援の建築です。しかも、住宅であるから、ここは家族や個人が生活する場所でもあります。そんな前代未聞の住宅を、河本氏は科学的というのです。何が科学的なのか。この壁の原色は、ゲーテ自然学の正当な継承であり、多種多様な形体は、ゲーテが「原型」と呼んだそれと同じものだからです。事実、ゲーテが確信したように、自然界の生き物は、基本的にはこの「原型」の変化と継ぎ足しによってつくり上げられているといいます。

河本氏が、なぜ「三鷹天命反転住宅」に注目するのでしょうか。そこでわれわれは、ずっと忘却し続けてきた身体を、まさにわれわれが生身として生きている身体を、そこに初めて自覚的に発見することになるからです。ただ、発見するだけではない。ひとたびそこに立つと、身体が自己の産出的形成運動を開始する。オートポイエーシスの局面が次々に身体内感として、つまり、感覚、知覚、認知されていくというのです。身体が形成され、さらには経験が身体の調整能力を拡張する。まさに、生命と身体と空間が一致するのです。

一方、脳科学の急速な進展によって、認知機能と身体機能のつながりが解明され、両者が一体となった新たな身体が生まれようとしています。それは、脳(情報)と生体(細胞)を新たな回路から結びつけるだけでなく、動物(生命)と機械(環境)を結合させます。新たな人間機械論の誕生を予感させます。

身体と外部環境が地続きになり、身体と機械、身体と動物の境界が融解する、こんなSFのような世界がすでに始まっているのです。この身体の新たな位相を三つのディスカッションで徹底的に論じます。

● 〈トポロジカル・ディスカッション[1]〉近さと経験

河本英夫(東洋大学文学部教授/システム・デザイン)× 柳澤田実(南山大学人文学部キリスト教学科准教授/哲学・倫理学、宗教学)

● 〈トポロジカル・ディスカッション[2]〉私はどのように動いているのか……運動・予期・リハビリテーション

河本英夫× 宮本省三(高知医療学院学生部長、日本認知運動療法研究会会長/理学療法士)

●〈トポロジカル・ディスカッション[3]〉からだのなかにヒトが在る……動物・暴力・肉体

稲垣正浩(21世紀スポーツ文化研究所主幹研究員× 柳澤田実

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