オートポイエーシスの河本英夫さんから、『哲学、脳を揺さぶる オートポイエーシスの練習問題』を贈呈していただいた。まずびっくりしたのが、本書の発行所だ。『投資の王道』や『M&A最強の選択』、『イノベーションの本質』といったマネージメントや投資、経済関係の書籍を出している日経BP社である。ということは、本書も位置づけはビジネス書? 確かにそうともいえる。とはいえ、一風変わったビジネス書であることは言うまでもないが。
河本さんが本書で目指したものは、身体行為とイメージの活用法である。イメージを一つの手がかりにして、それを行為に接続することで新たな経験の領域をつくり出そうというのである。河本さんの言葉で言えば、「創造性の科学哲学」ということになる。
「手は外に出た脳であり、身体は外に出た脳の容器である。頭蓋骨のなかに納まっているのは、脳の構造部材であり、この構造部材を有効に活用するためには、外に出た脳に有効なエクササイズを課すしかない」。そのために必要になるのが身体行為を含めたイメージの活用であるという。
凡百のノウハウ本が体のいい学習方法しか提示できていないのに対して、本書が提起するのは能力それ自体の形成である。そのためには発達を再度リセットする必要があり、能力そのものの形成に働きかけるようなエクササイズを設定することが重要だと説く。
「発達のリセットには、わかるとは別の仕方で「できるようになる」という広範な裾野がある。こうした領域ではイメージが決定的に利いている」というのだ。ここで展開されようとしているのは河本オートポイエーシス論の具体的な活用方法である。
『談』no.76の河本英夫、十川幸司対談で、情動回路ともその作動を共有するイメージの領域がポイントとなると河本さんは強調されたが、まさにその「イメージ」が本書の中心的な課題なのだ。『談』の対談をさらに深く理解したい読者は、ぜひ本書をお読みいただきたい。
なお、次号で登場する文化庁メデイア芸術祭大賞の木本圭子さんの作品が参照されていたり、次々号の特集で全面展開されるヴイゴツキーの重要概念「最近接領域」にも言及されていて、『談』とは縁の深い一書であることも付け加えておこう。
哲学、脳を揺さぶる オートポイエーシスの練習問題