「トランス・ヨーロッパ」は融合への衝動

二日にわたってライブに行ってしまいました。渋谷0-EASTでの「トランス・ヨーロッパ・フェス」。1日目がシンク・オブ・ワンで2日目がKiLA。シンク・オブ・ワンはベルギーのバンド。彼らは世界のさまざまな場所に赴いて、現地のミュージシャンと寝食をともにしながらアルバムをつくるということをやってきました。今回は、最新アルバムでコラボレーションしたブラジルのミュージシャンと来日。ジャズ、ロック、フアンクをある時はダブに、ある時はアラビックにアレンジして、最終的にはラテンフレイバーをまぶしつつブラスバンドで出力するという離れ業をやってのけます。 一方のKILAは、アイルランドのバンド。アイルランドの伝統音楽トラッドをベースに、アフロ、カリブ、ジプシー、ファンクがミックス。こっちは、それをサイケデリックでダンサブルなトランスで出力。哀愁をおびた熱狂ダンス系という、これまた二つと無い破天荒な音楽をつくり出します。両者に共通しているのは、融合への強い欲動。グローバリズムとは正反対の、自ら越境し他者と溶け合い、渾沌化することへの力強い肯定の姿勢。寛容さを失い、「過防備都市」(五十嵐太郎)へと急速に向かいつつある僕たちの社会にとって、彼らの音楽は強烈な批判言語となります。「やっぱり必要なのは文化のクレオール化だ」、そんな強い気持ちが吹き出してきました。とはいえ、頭をカラっぽにして踊り続けていたわけですけどね。続きを読む

木田元先生の読書会

木田元先生の取材用レジュメの作成。先生の本はとっても読みやすいと改めて思いました。レジュメがつくりやすいからです。それは、構成と論旨が明確だからでしょう。中央大学へ。すでに退官されておられるのですが、毎週月曜日に読書会をなさっていて、そのために大学に来られるのだそうです。読書会は、72年からほとんど休むことなくやられているとのこと。なんと30年以上! 中には結婚されて今では主婦として参加している方もおられるとか。読書会ではここのところずっとハイデガーの講義録をテキストにしているとのことでした。もちろん原書。現在の関心はとお聞きしても、ハイデガー、何か面白いものはと聞いてもハイデガー、とにかくハイデガーなのです。でも、インタビューは大変面白かった。粉川哲夫さんのことも知らなければ、「中国女」にフランシス・ジャンソンが出ていることもご存じなかった(先生はジャンソンの唯一の邦訳『現象学の意味』の訳者)。現象学もメルロ=ポンティもユクスキュルもあのマッハでさえもハイデガーに流れ込んでいく。でも、最大のキーパーソンはシェーラーだというのが、最近の先生の発見。ご友人をだいぶ亡くされて寂しいようですが、先生は元気溌剌。まだ頼まれている翻訳の仕事が山のようにあって、「自分の本がかけないよ」とにこにこしながらおっしゃっておられました。インタビューは「en」の10月号に掲載されますのでお楽しみに。

プラトンというあだ名

来週「en」で木田元先生にインタビューをするんで、先生の著作を読んでいます。先生は、『現象学』(岩波新書)、『メルロ=ポンティの思想』(岩波書店)、『ハイデガー』(岩波現代文庫)といった論文集ばかりではなく、『闇屋になりそこねた哲学者』(みすず書房)とか『哲学以外』(みすず書房)といったエッセイ集も何冊か出されています。じつは、こっちの方もなかなかに楽しい。先生は戦後ほんとに闇屋をやっていて、けっこうなぼろ儲けをしたようですが、それで一家を支えていらっしゃったのだそうです。ところが、『存在と時間』に出会ってしまって、どうしてもこれを読み終えなければならないと決意されて、哲学を始められたというのです。やはり、非凡な人は何かがちがいます。ところで、『哲学以外』にこんなエピソードがありました。プラトンはじつはあだ名で、本名はアリストクレス。〈プラトン〉は〈幅が広い〉という意味の形容詞〈プラテュス〉からつくられた名詞。だから、プラトンはさしづめ〈ひろし〉さんといったところだと先生はおっしゃいます。なんか愉快な話だと思いませんか。

三省堂神田本店(神保町)でトークセッションと講演会

『談』最新号にご登場いただいた東京大学大学院情報学環助教授・北田暁広さんが筑波大学大学院人文社会科学研究科教授・若林幹夫さんとトークセッションを行います。若林さんは僕が企画編集に関わっているもう一つの季刊雑誌『City&Life』で、原稿をご執筆いただいたり、建築家の長谷川逸子さんらと座談会にご出席いただいたり何かと縁のある研究者のお一人です。テーマは「都市=メディアの交わるところ 空間の文化政治学」。
もう一つは、神戸大学理学部教授・郡司ペギオー幸夫さんの講演会。『原生計算と存在論的観測』刊行記念に合わせて同名のテーマで行われるもの。郡司さんは、『談』no.59「老いの哲学」で大澤真幸さんと対談を行っています。生命とは何か? 時間とは何か? この人類最大の問いに「内部観測」からいかにしてアプローチするか。
どちらのイベントも興味津々です。
●「都市=メディアの交わるところ 空間の文化政治学」
日時:9月3日(金)18:30〜三省堂書店 神田本店8階特設会場
参加費:500円
●『原生計算と存在論的観測』刊行記念講演会 
日時:9月18日(土)14:00〜(開場13:30)会場:明治大学アカデミーコモン
参加費:500円(税込)
いずれも、申込先は三省堂書店神田本店 03-3233-3312(代表)トークセッション、講演会係

最新号 no.71 発売!

『談』no.71 最新号特集:匿名性と野蛮
■<対談>匿名化するメディアからメディア化する匿名性へ
……2ちゃんねる、Blog、チャットのディスクール 斎藤環×北田暁大
■ゾーエー、ビオス、匿名性          小泉義之
■匿名性……ナルシシズムの防衛    酒井隆史
■editor's note before…… 匿名性の意味を問い直す
■editor's note after…… 寛容さと自由な空間
■書物のフィールドワーク

最新号詳細

佳村萠さんの「うさぎのくらし」

渋谷公園クラシックスへ。佳村萠さんのソロアルバム「うさぎのくらし」発売記念ライブに行きました。佳村萠:歌/詩・鬼怒無月:ギター・勝井祐二:ヴァイオリン/ゲスト・SACHI-A:ドラム・坂本弘道:チェロ・松永孝義:ベース・羽田野烈:映像。
フジロックフェスティバル04の「渋さ知らズ」と「チビズ」の演奏に興奮してからまだ半月も経っていないのに、再び勝井さんのヴァイオリンが聞けて感激。(日比谷野音の「ROVO」のトランシーな演奏もよかったですよ)。鬼怒無月さんはTrabandの来日公演でWearhouseの一員として演奏したのを見て以来です。今日のギターは、静謐で幾分湿り気を含み、あいかわらずからだに響く音をつくっていました。しかし、なによりも佳村萠さん。すごくよかった。歌のようなポエトリーリーディングのような。混然一体となった声が、不思議な抑揚とリズムをともなって発せられる。会話のようでもあリ独語のようでもあり。そうそうたるミュージシャンをバックに一歩も引けを取らない。というか、彼らをうまくリードしている感じにもみえました。控えめだけれど、すべてを肯定していくその姿勢。改めて詩の力を知らされました。会場には中川五郎さんの姿が。帰りにCDを買ったら、五郎さんがライナーノーツを書いていました。五郎さんも好きだったんですね。
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反常識の知の人はだれ

「en」の原稿依頼で稲葉振一郎さんの研究室を訪問。いい機会だったので、『反社会学講座』の著者パオロ・マッツァリーノさんは何者ですか、と尋ねましたが、「なにやら○○さんが調査中でうんぬん…」というはっきりしない答えが返ってきました。誰かご存知の方、教えて下さい。というか、みんなもう知っていて、知らないのは僕だけだったりして?
反社会学講座

『〈私〉の愛国心』の〈私〉とは

香山リカさんより『〈私〉の愛国心』(ちくま新書)を贈呈していただきました。まだ全部読んでいないのですが、本書は、『ぷちナショナリズム症候群』(中公新書)の続編にあたるようです。現代の若者のナショナリズムへの傾斜を論じた著者は、今や若者だけでなく日本人全体にその傾向がみられることを、「愛国心」というキーワードを手掛かりにその行方を探ろうとしています。あとがきで著者はこう書いています。「(…)自信家の国、それはアメリカであり、〈自信家にならねば〉と躍起になっている国、それは日本である。そして、日本は、その自信家になるための条件として〈愛国心〉が必要、と強く考えているようだ」。その結果、「私」を捨てても「国」として「公」として考えようではないかと言う。しかし、それはまったく逆ではないかと著者は言います。「〈私〉を大切にするあまり、公の意識を失ったことにあるのではなく、それぞれが本当の意味で〈私〉に向き合ってこなかったことにこそ、(問題が)あるのではないか」。つまり、日本人が積み残してきたのは〈私〉についての問題だったと香山さんはいうのです。これはじつは『談』の次の特集で考えてみようと思っていたこととも重なる問題で、大いに参考になりそうです。
<私>の愛国心

堀口俊英さんに味覚の言葉を尋ねる

移転リニューアルした珈琲工房狛江店で堀口俊英さんとばったり会いました。例の「[食文化]おいしさ研究所」の企画でまたお話を伺うかもしれませんとお話しすると、またまた、珈琲の新しい切り口をべらべらべらとものすごいスピードで話してくれました。堀口さんは、珈琲に関して常にアグレッシッヴに取り組んでおられます。堀口珈琲研究所はここ→堀口珈琲研究所

音楽家による身体の思想

九州国際大学経済学部教授・石田秀実さんより『気のコスモロジー 内部観測する身体』岩波書店刊、を贈呈していただく。石田さんは、98年に『談』no.59「老いの哲学」で「壮年期という幻想 成長と老いの途上で生きる身体」というテーマでインタビューをさせていただきました。その後、ある音楽会で石田さんと再会する機会がありました。というのは、石田さんは近藤譲さん佐野清彦さんらと作曲グループW.E.T.を結成し、作曲家としても活動されておられました。音楽会とは、石田さんが東京でなさった個展のこと。アンサンブル・ノマドによる演奏が、普段あまり現代音楽に接する機会の少ない僕に強烈な印象を残し、いまでも忘れられないコンサートの一つです。石田さんはおからだを悪くされていて、めったに東京に出てくることはありません。今回またこんな大きな仕事をなさって、そのバイタリティには、ただただ頭が下がりっぱなし。ゆっくり、きちんと読ませていただきます。
気のコスモロジー―内部観測する身体
コンサートで演奏された作品を収録したCD『神聖な杜の湿り気を運ぶもの 石田秀実作品集』ALMレコード ALCD-60 2001
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